2015年2月25日水曜日

生活構造の縦と横

「生活構造」というと、ミクロ経済学的な収支構造や消費分析を考えがちですが、ここではもっと視野を広げて、人間という動物に特有の言語能力が生み出す、生活の仕組みを考えていきます。

人間の言語能力については、古今東西を問わず、宗教や哲学の基本的なテーマでした。インド仏教の唯識論やギリシャ哲学のイデア論から、20世紀に生まれた、幾つかの西欧思想に至るまで、「言葉とは何か」については、さまざまな視点で考えられてきました。



その中で、思考のベースとしてもっともふさわしいのは、わが国の碩学、井筒俊彦(1914~1993)の提起した言語観だと思います。イスラーム学者として出発した井筒は、ギリシャ哲学やスコラ哲学、インド仏教や儒教などの東洋哲学、さらには20世紀の近代思想まで、脱領域的な思考を展開した人です。その広大な思想的枠組みを応用すれば、ともすれば西欧思想に偏りがちな議論を超えていくことができます。
 

井筒によると、人間の言語能力については、「垂直的(vertical)」と「水平的(horizontal」という2つの軸で整理できます。垂直的とは「人間の言語意識を、いわば深みに向かって掘り下げていく」軸であり、水平的とは「(言語の社会約定的記号コードとしての側面)に基づいてなされる人間相互間のコミュニケーション」の場を考察しようとする軸です(『意味の深みへ』)。

人間の言語能力は、その心理状況や生活行動に密接に関わっていますから、以上の視点を拡大すれば、垂直的とは表層から深層へ、意識から無意識へと、階層的に深化する、心理的な〝縦軸〟 であり、また水平的とは内側から外側へ、個人から集団へと、空間的に広がる、行動的な〝横軸〟 ということができます。

このように理解すると、私たちのさまざまな生活願望が生まれてくる〝場〟、つまり現象学的社会学が「生活世界」と名づけた生活空間は、縦軸としての心の階層と、横軸としての行動の空間の、相互にクロスする次元において、まずは把握できると思います。 

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