2015年3月4日水曜日

縦軸が生み出す3つの生活願望・・・欲動・欲求・欲望

モノ界(感覚界)・モノコト界(認知界)・コト界(言語界)の図に示した心理構造こそ、私たち人間の、さまざまな生活願望が湧き出てくる源泉です。

例えば丸山圭三郎は、コト界から生まれる非自然的な願望を「欲望」、モノコト界から浮かびあがる純生物的な願望を「欲求」、コト界とカオスの間から噴出する願望を「欲動」と、3つに分けています(『欲動』)。




この視点は、現代記号学の開祖、F.ド・ソシュール(1857~1913)や社会学者のJ.ボードリヤール(1929~2007)の思想にも通底しています。そこで、この図に沿って、それぞれの位置づけを整理しておきましょう。


 
まず「身分け」と「言分け」の裂け目から生まれるのが「欲動(仏plusion、英drive、独trieb)」です。身分けを行なう「本能」は、人間も含めた全ての動物に備わっているもので、それぞれの生活の行動様式を示すとともに、生のエネルギーそのものも意味しています。

このエネルギーは、ヒトがヒトになる以前には、「身分け」によってきれいにすくい上げられていました。ところが、「言分け」は2つを分離して、前者の行動様式については一定の規格の中に納めますが、後者のエネルギーについてはそのまま残してしまいます。

こうしたエネルギーは時として噴出し、カオスを作りだします。いいかえれば、言分けによって、コスモスとカオスが生まれますが、このカオスが無意識の次元から噴出させる願望、それが「欲動」となるのです。それゆえ、欲動は間違いなく人間の願望の一つですが、通常は無意識的な衝動として意識下に沈潜しています。

次に「言分け」がすくいあげたコト界では、コト=シンボル化能力との関わり方の違いによって、「欲求(仏besoin、英want、独wunsch)」と「欲望(仏désir、英desire、独begierde)」が生まれてきます。

欲求」は、フィジクスとしての生理状態が、コスモス上に浮かび上がってきた時、その適否に対応しようとして、モノ界とコト界の境界に発生する願望です。生物としての身体が求めるものを意識に組み入れたうえ、要・不要を判断し、改めて有用性を追い求めます。その意味では、人間という種が生きていくために必要な、いわば生理的な次元のモノ願望をコト化したものです。

他方、「欲望」は、言分けそのものによって、コスモスの上に生まれてくる願望です。コト=シンボル化能力は、生理的な要・不要を超えた次元で、非生理的な〈記号〉を求める願望を募らせます。それは真偽、美醜、善悪など言葉の作り出した幻想を追い求める心理状態を意味していますから、まったく非生物的、人工的な願望ということができます。

以上のように、モノ界(感覚界)・モノコト界(認知界)・コト界(言語界)という心理構造の中から、私たちの生活願望の3つの次元が生まれてきます。

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