2017年2月25日土曜日

〝差延化〟で消費市場を脱構築する!

これまで〝差延化〟行動の代表的な事例を幾つか眺めてきましたが、改めて整理してみると、生活民が消費市場へ対応していく時に留意すべき、基本的な要件が幾つか見えてきます。


①「自給自足」実現のため「他給自足」を活用する。
生活民の生活の基本である「自給自足」を実現していくには、自然界はもとより市場界まで、外部社会に存在する、あらゆる生活素材効素:効用の素)を柔軟に利用する「他給自足」能力が求められます。

②コト次元で差延化力を高める。
独創的な思考家が標準語の単語の意味を私的な意味に変えて豊かに使いこなす(
パロール2)ように、自然界の「効素」や市場界の「共効」などを素材にして、自らの「私効」を作り上げていく、多面的な応用力を高めなければなりません。

③モノ次元で差延化力を高める。
モノ次元での差延化力(パロール2)を実際に具現していくためには、モノそのものの選択力はもとより、直接それらに手を加えて「効素」や「共効」を「私効」に変換していく、モノへの差延化力が求められます。

④コスト次元で差延化力を高める。
自給自足であれば、生活民は己の力だけでモノやサービスを獲得できますが、市場社会の中では「効素」や「共効」を購入したうえで、「私効」化しなければなりませんから、市場価格そのものもまた差延化し、独自のコスト体系を創り上げていく態度が必要になります。

⑤モノ・コト・コストの差延化で消費市場をデコンストラクト(déconstruct:解体・再構築)する。
コト、モノ、コスト次元での差延化を実現することで、生活民は市場から押し付けられる商品やサービスのネウチを換骨奪胎し、その積み上げによって販売装置である「消費市場」の意味や機能さえも、生活素材提供装置としての「生活素場」へと再構築していかなければなりません。

以上のように、生活民の差延化行動には、既成の社会的装置として確立されている消費市場の機能変換が期待されていますが、さらにはその前提である市場社会そのものに対しても、修正の可能性を保持していると考えるべきでしょう。

2017年2月21日火曜日

「手作り」・・・生活民マーケティングの基本!

5つめの「手作り」は、「参加」や「変換」をさらに押し進め、生活民が生活財を”自分”の手で作る」行動です。

究極的には「自給自足」をめざすものですが、私たちが生きている、現在の市場社会ではほとんど不可能に近い行動です。

自分で水田へ行って田植えをし、収穫した籾を脱穀・精米してご飯を炊く、という単純な行為でさえ、今では容易なことではありません。スーパーでお米を買ってきて、炊飯器で手ずから炊き上げるのが精一杯の「手作り」です。

それゆえ、今時の「手作り」とは、購入してきた素材に何らかの形で自らの手を加え、最終的な生活財に作り上げる、という程度です。


言い換えれば、2~3割の素材に7~8割の手作りで目的のモノを作りだす、ということになるでしょう。

こうした視点から生活民の行動を見なおしてみると、衣食住はもとより、真面目(学習・儀礼など)や虚構(遊び・休養など)に到るまで、さまざまな先例が見つかります。



食生活分野ではもともと炊事や調理などでユーザーの手が入る比率が高かったためか、一旦は進んだ既製品化に対して、本来の自給行動が復活しつつあります。例えば、手作りのパン、味噌、豆腐、燻製、ビール、ワイン、日本酒、焙煎コーヒー、ハーブ、ヨーグルトなどです。

衣生活分野でも、自作ファッション、手作りアクセサリーから手作り化粧品、手作り手芸まで、自給的行動がすでに広がっています。

住生活分野では、セルフビルド住宅、手作り家具、手作りガーデニング、手作り工具など、いわゆるDIY行動が伸びつつあります。

真面目分野でも、手作り結婚式、手作り葬儀、手作り自費出版などで、手作りが進んでいます。手作り結婚式とは、ホテルや業者のお仕着せを嫌って新郎新婦が自ら演出する結婚式や披露宴であり、若いカップルの間で次第に伸びてきました。

虚構分野では、手作り海外旅行、デジタルクリエイター、手作りゲームなども急速に広がっています。

以上のように、生活財の購入が一般化している市場社会の中でも、「手作り」行動はなおも継続しているばかりか、デジタル化の進む中で少しずつ増殖しています。

とすれば、生活民に求められる「手作り」行動への対応力とは、次のように整理できるでしょう。

①消費市場から提供される商品やサービスの共効や個効にとらわれることなく、自らのアイデアと能力で自分だけの用途や私効を実現していく、積極的な姿勢が求められます。

②「手作り」の本質は、既存市場で通用している価値や共効にとらわれることなく、真に自らの望むモノやサービスを実現していこうとする「コト」能力ですから、日ごろから市場からの提供物を相対化する態度が求められます。

③コト次元の「手作り」目標を実現するためには、既存のモノやサービスを材料にして、自らの目標を実現していく「手作り力」が強く要求されます。

要するに、生活民の「手作り」力とは、自給自足」力と言い換えることができます。

かつて
「生活者」という言葉を初めて提唱した大熊信行は、生活の基本が「自己生産であることを自覚して」、「営利主義的戦略の対象としての、消費者であることをみずから最低限にとどめよう」とする人々だ、と述べていますが、この「自己生産」の基本こそ「手作り」である、といえるでしょう。

2017年2月13日月曜日

「変換」・・・生活民マーケティングの神髄!

4つめの「変換」こそ、生活民の「差延化」対応の真骨頂ともいうべき生活行動です。

消費市場から提供される商品のネウチ(共効)を、生活民独自の視点で全く別のネウチ(私効)に変えてしまうという手法です。



代表的な事例は100均商品(100円ショップの商品)の変換です。コーヒーフィルターをリースやランプシェードに、ザルを壁掛け時計に、ステンドグラスオーナメントを窓枠風インテリアに、焼き網をウォールシェルフに、フォトフレームをガラスケースに、100円手ぬぐいを子ども服に・・・などなど、生活民はすでにさまざまな転換を実現しています。

工業・工作用のマスキングテープも、さまざまに変換されています。壁紙、写真フレーム、窓飾りなどのインテリア化は勿論、メガネフレーム、ブローチ、折り紙ネックレスなどのアクセサリー化、ギフトラッピング、グリーティングカードなどの交際グッズ化というように、多様な変換事例が生み出されています。

風呂敷でも、さまざまな使用法が生み出されています。粋なデザインが描かれていますから、壁掛けやテーブルクロスにもなりますし、ネッカチーフとしても使えます。

最も日常的な事例は冷蔵庫です。真夏に独身女性がどのように冷蔵庫を使っているのか、アンケート調査では食品しか上がってきませんが、実際に写真を撮ってみると、食品以外に化粧水、薬品、ビニール袋に入れた通帳や現金、さらには新品のパンティストッキングも入っています。ストッキングは、一度冷凍すると伝染しにくくなるからです。

また冷凍庫には生ごみ入っています。1週間単位で生活していると、毎日は捨てられないので、腐臭を避けるために冷凍してしまうからです。
また先に紹介した救急医療情報キット「命のバトン」も、先端的な変換事例の一つといえるでしょう。

とすれば、冷蔵庫は必ずしも食べ物を保存するだけのものではない。生活民はむしろ総合保管庫、あるいは総合ごみ箱に変換しているのです。

このように、「変換」対応行動には、市場社会の差し出す「共効」を、ユーザーが自らの「私効」へと積極的に変えていく、典型的な生活行動が読み取れます。

とすれば、生活民に求められる「変換」行動への対応力とは、次のようなものになるでしょう。

① 既存の商品の用途や価格などには気に掛けることなく、自らのアイデアで自分の求める用途や私効を実現していくことに傾注することが求められます。

② 「変換」の本質は、日常の常識や既存の価値観を逆転する「コト」次元の能力ですから、そうした能力を常に鍛錬しておかなければなりません。

③コト次元の「転換」目標を実現するためには、既存の商品への「加工力」や「手作り力」など、「モノ」次元の介入能力もまた高めておくことが必要です。

要するに、生活民の「変換」力とは、消費市場そのものを「脱構築」していく、最も基礎的な行動の一つといえるでしょう。

2017年2月4日土曜日

「編集」・・・問われるのはコトとモノの調整力!

3つめの「編集」戦略は、さまざまな既製品を自由に組み合わせて、自分なりのモノを作りあげる、ユーザーの“自主編集権”を満足させるもので、供給側からいえば、それぞれの材料を提供する手法です。

代表的な事例としては、マイブレンド酒、惣菜バイキング、自由編集アクセサリー、高級コンポステレオなどがあげられます。



マイブレンド酒とは、自ら編集して作りだすウィスキー。バーのカウンターにウィスキーのモルト(原酒)をズラッと並べて、ユーザー自身がさまざまに混ぜながら、自分だけの「マイウィスキー」を作り出す販売方式です。

惣菜バイキングは、ユーザーが惣菜を自由に組み合わせて、好みの献立を作りあげるサービス。惣菜店の店頭に50~60種の惣菜をズラッと並べ、値段は100グラム150~300円の2種類とします。ユーザーが値段別のプラスチック容器に種類も量も自由に取って、カウンターで1回計量するだけ。別売りのごはんと合わせると、体調や好みに見合った弁当ができあがり、店員の人件費も安くなるという、双方の利点があります。

自由編集アクセサリーは、フリースタイルのアクセサリーともいわれており、1つの素材がブローチになったり、ペンダントになったり、いろいろなデザインを楽しめるもの。ユーザーがその時の気分でいろいろと工夫して、より満足度を高めることができます。

高級コンポステレオは、ちょっとマニアックなユーザーが、A社・B社・C社の商品の中から最良の部品を買ってきて独自に組み合わせ、自分好みの音感を作りだすもの。ここまでくると、最高級の編集型商品といえるでしょう。

以上のように、「編集」次元では、コトとモノへの両方の介入度が「参加」次元よりも、いっそう強まってきます。「参加」次元への介入度が5割以下だったとすれば、「編集」次元のそれは5割以上といえるでしょう。

それゆえに、生活民に求められる「編集」行動への対応力とは、次のようなものになります。

①「私仕様」や「参加」と比べて、適切な便益を求めるためには、多少の費用増加もまた負担することが求められます。

②「選択」の本質は、ユーザー自身の嗜好性や目標性という「コト」次元の能力ですから、日ごろから錬磨しておくことが必要です。

③「組み合わせ力」や「加工力」といった「モノ」次元での介入能力もかなり求められますから、これまた日ごろから高めておことが必要です。

要するに、生活民の「編集」対応力とは、高度な市場社会を前提にしつつ、そこからの供給物を徹底的に利用して、より高度な自己の願望を実現するために、コトとモノを調整していく能力ということになるでしょう。


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