2018年2月18日日曜日

中国から漢字「價直(げじき・かちょく)」が渡来した!

中国大陸から日本列島へ漢字が渡来したのは、古くは1~2世紀といわれています。とりわけ7世紀に遣隋使が派遣されて以降は、仏教文化律令制度などの渡来に伴って、大量の漢字が日本へ輸入されました。

そこで、「役に立つか否か(有用性)」や「あい対するかどうか(相当性)」という観念についても、漢字が使われるようになったのです。

幾つかの事例を振り返ってみると、すでに古墳時代から「價直」という漢字が導入され、「げじき(呉音)あるいは「かちょく(漢音)と発音されていたようです。


例えば、5世紀初頭に受け入れられた『妙法蓮華経(法華経)』には、「即解頸衆宝珠瓔珞。價直(げじき)百千両金」(首にかけていた、美しい宝珠の首飾り、百千両に相当するものを外して)と書かれています。

また7世紀初頭に渡来した『根本説有部律』にも、「白拂價直(げじき)百千兩金」(百千兩金のあたひの白い払子=ほっす)と記されています。

平安~鎌倉時代(8~14世紀)になると、「價直」は渡来の仏典だけでなく、日本の文献でも使われるようになりました。

8世紀末の『続日本紀』(延暦16年=797年)には、「天平元年、孟春正月、(中略)宜給京及畿内官人 已下酒食價直(かちょく)(酒食相当が支給される)と書かれています。

11世紀の『私聚百因縁集』(正嘉元年=1257年)には、「東城国送るに價直(かちょく)浮檀金(えんぶだんごん=砂金金)の百億両と云ふ」との表現が見られます。

このように漢字が導入されて、仏教界や大和政権から一般庶民へと普及していく過程で、「相当性」という観念は「價直(げじき、かちょく)」という言葉で表されるようになりました。



しかし、字源を辿ってみると、「」は「亻:人」+「西:うつわ」+「貝:貨幣」が組み合わされた文字であり、「器の中に入った貨幣を人が持つ」状態を表していますから、「価格」、つまり「あたひ」を意味しています。

一方、「」は「十:正面、まっすぐ」+「目:見る」+「―(線)」を組み合わせた文字で、「線をまっすぐ見る」ことを表しており、これは「ねうち」に近い観念と思われます。

とすれば、「価直」という漢字は「真っすぐ見たそのもの」に「価格をつける」、つまり有用性」と「相当性」の複合化を意味する言葉ということになります。

ところが、古代日本において「」の字が「あたひ/あたへ」と読まれたことから、「あたひ」に相当する言葉となってしまいました。字源の意味する「ねうち」が「あたひ」に置き換わったのです


以上のような推移から考えると、「價直」という漢字は、「あたひ」と「ねうち」を統合した便利な言葉として日本人に受け入れられたものと思われます。

だが、便利さゆえに、大和言葉で分けられていた「ねうち」と「あたひ」、つまり「有用性」と「相当性」の区別は曖昧にされてしまった、ともいえるでしょう。

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